“登山届は必ず提出しましょう”登山口でよく目にするキャッチフレーズです。
しかし、登山を始めたばかりの初心者の方は次の様な疑問を持つ方もいるかと思います。
- 登る山の難易度はどうやって確認すればよいの?
- コースタイムってどうやって見積もるの?
- 必要な装備をどうやって厳選するの?
- パーティーメンバーの情報は書くべき?
そこで今回は、登山計画、登山届の立て方と書き方、注意点について徹底解説していきます!
・登山を始めたばかりの人、始めてみたい人
・登りたい山がある人
・登山届、登山計画の具体的な立て方が知りたい人
・登山技術を磨きたい人
安全登山のために、事前の登山(山行)計画が必須

登山口で「登山届を提出しましょう」という看板を見たことはありませんか?
実は、登山計画を立てて登山届を提出することは、山行の安全を確保し成功率を上げるために欠かせないポイントです。
山行(さんこう)とは
登山やハイキングをしに山岳地へ行くこと全般を指した言葉です。
使用例:『今回の山行では槍ヶ岳に行く予定』など
登山計画を立てる理由と目的
- ルートの選定と事前調査
ルートの難易度を調査し、自分の経験や体力と照らし合わせることで、山行の成功率や遭難のリスクを見積もる。 - 緊急時の対応策の確認
不足の事態や、思った通り山行が遂行できなかった場合の対応策を事前に考えておく。 - 必要装備の確認
山行に必要な装備を厳選することで、荷物の軽量化を図り、体力を温存する。 - パーティーメンバーの情報交換
同行者の情報は事前交換しておき、緊急時、各方面に連絡や情報伝達が取れるようにしておく。
計画を立てることが、快適で安全な登山への第一歩です。
次章以降で詳しく解説していきます。
登山(山行)計画の作成手順
STEP1.登る山とルートの事前調査を行う

登山を行う際に、まず決めなくてはならないのが、登る山とルートの選定です。
登る山、ルートを選ぶ際に調査するのが、その山、ルートのグレーティング(難易度)です。
グレーティングは以下の二つに分類できます。
- 必要な体力度
ルートの長大さや急登、山行時間の長さによって必要な体力度が変わります。 - 登山技術度
岩稜帯、ガレ場、ザレ場、梯子や鎖場など、通過に技術を要する危険箇所の有無で異なります。
ガレ場、ザレ場とは
- ガレ場
登山道が岩や大きめの石で覆われている箇所。
踏むと動く石(浮石)により、落石や滑落の危険が増す。 - ザレ場
登山道が砂利や砂地となっている箇所。
足元が滑りやすく滑落の危険が増す。
山のグレーティングについては各県のホームページに記載があります。
体力や技量に見合った登山を行うための情報として、各地の山域では「山のグレーディング」についての情報を次の通り提供している。
日本山岳・スポーツクライミング協会
登山計画を立てる際など、「山のグレーディング」を参考に、各人の体力・技量など「身の丈にあった」コースを選んで、より安全で快適な登山をされるように心がけましょう。
例えば、長野県の山の場合、下記のページで各山のグレーティングが分かります。
自分の体力・技術・経験と照らし合わせ、登ろうとしている山の登頂確率がどの程度か、遭難のリスクがどの程度かを事前に見積もってください。
エスケープルートも確認する
山行計画を立てる際は、次のような不測の事態を想定しておくことが必要です。
- 天候悪化
- 突然の体調不良や怪我
- 体力切れ、脱水症状
- クマやイノシシ、ハチなどの野生動物や毒虫との遭遇
- 登山靴やギアの故障
- 予定コースタイムからの大幅な遅れ
こうした状況に陥り、計画したルートの達成が困難になった場合に備えて、下山用に用意しておくルートをエスケープルートといいます。
ルート上の山頂や峠(鞍部、コル)といった場所からは、複数の明瞭な登山道が付いている場合が多く、こうしたルート上の要所を起点に、エスケープルートを確認・設定するのがおすすめです。
STEP2.入下山時間と、コースタイムを見積もる
登山ルートが決まったら、入下山時間と各ポイントまでのコースタイムを見積もります。
コースタイムを見積もる方法は主に次の3つがあります。
- 登山専用地図を活用する
- ヤマレコ、ヤマップ、コンパスなどの登山サイト、アプリを活用する
- 過去の登山経験や山行記録を基に、標高差と歩行距離から算出する
登山専用地図を活用する
初心者に最もおすすめなのが、登山専用地図の活用です。
その中でも山と高原地図は、代表的な登山専用地図として多くの登山者が活用しています。
地図上にコースタイムや山小屋、周辺施設の情報が記載されている登山専用の地図で、初心者でもコースタイムやルートの概要を容易に把握できます。
また、当日の行動時刻を地図に直接書き込み登山に持参することで、山行中でも行程管理がしやすくなります。
山と高原地図のコースタイムは、以下の登山者を想定し計算されており、自身の条件に合わせてコースタイムの調整が必要です。
- 40〜60歳の登山経験者
- 晴天時の夏山の小屋泊装備(10kg前後)
- 2~5名のパーティー
例えば、自分が登山未経験の20代かつ単独日帰り装備の場合は、記載されているコースタイム通りか、ある程度余裕ができることが予想できます。
一方、自分が登山未経験の60代かつ、4名のパーティーの場合、記載されたコースタイムより余裕をもった山行計画を立てる必要があると考えられます。

地図上にコースタイムや主要なチェックポイントの情報が書き込まれた地図です。
初心者には直接メモできる紙版がおすすめです。
自身の条件に合わせ、記載されたコースタイムを調整して山行計画を立てて下さい。
登山サイト、アプリを活用する

コースタイムの見積もりには、登山サイトやスマートフォンアプリが便利です。
代表的な登山サイト、アプリは次のとおり。
ヤマレコ

2005年から山行記録の投稿サイトとしてサービスを開始した登山サイトです。ウェブページまたはアプリの山行計画の機能を使い、登山ルート上の要所を選択することでコースタイムを自動計算可能で、簡単に山行計画を作成できます。
ハイキング~クライミング、バリエーション山行まで様々な記録が充実しており、自分の行きたい山の記録が見つけやすいのが特徴です。
ヤマップ

スマホと登山の連携に力を入れている登山用アプリです。
こちらもスマホアプリの地図上の要所を選択することで、コースタイムを自動計算が可能です。
アプリのUIの使いやすさや、ウォーキング、ランニング、カヤック、観光など、登山以外のアウトドアアクティビティの記録も投稿されています。
コンパス

2013年にサービスを開始した山行計画用サービスです。
アプリ、ウェブから山行計画を作成でき、ヤマレコ、ヤマップと連携できます。
ヤマレコ、ヤマップで作成した山行計画をコンパスに登録し、そのまま各県警に登山届として提出できるのが最大のメリットです。
自分は山スキーや沢登の記録が多いヤマレコ×コンパス、妻はUIの使いやすさからヤマップを愛用しています。
ヤマレコやヤマップのコースタイムは、過去のユーザーの記録と、傾斜や道の種類、距離などから計算されています。
アルプス周辺のマイナールートなどは健脚な方が多く入山し、コースタイムが実際の歩行時間と乖離する場合があるため注意が必要です。
標高差と歩行距離から算出する
ある程度山行経験を積んでくると、地形図上の標高差と歩行距離からコースタイムを見積もれるようになります。
過去の山行記録から以下の情報を基にコースタイムを見積もります。
- 標高差100m辺り、どれくらいの時間で登れているか
- 地図上の直線距離辺り、どれくらいの時間で歩いているか
例えば自分の場合、立山室堂~雄山山頂までの標高差約550mを2時間弱で登っています。
100m辺りに換算すると、大体25分ほどです。
次に、千畳敷から木曽駒ケ岳に登りたいと場合を考えます。
千畳敷から木曽駒ケ岳の標高差は約330mなので、25分/100mで登れるなら、山頂まで掛かる時間は
『25min/100m × 330m = 82.5min なので、山頂までは 1時間10分~20分くらいかな~』といった感じで計算します。
このように、地形図上の標高差と歩行距離から大まかなコースタイムを把握することが可能です。
ただし、季節や荷物の重さ、道の歩きやすさでコースタイムが変わる点に注意する必要があります。
大まかにコースタイムを見積もった後は、登山地図やアプリで実際に設定されているコースタイムを確認してください。
STEP3.パーティーメンバーの連絡先を記載する
パーティーメンバーの連絡先を事前に交換し、登山届に記載してください。
またSNSなど、匿名で知り合った方と登山する場合でも、事前の連絡先交換は必須です。
連絡先を事前に交換し、山行計画や登山届に記載しておく理由は以下の通りです。
- 遭難時に迅速に、相手や相手の緊急連絡先と連絡を取るため。
- 遭難時に救助隊や警察に正確な情報を提供するため。
- 直前の体調不良や、行き帰りの事故などの際、相手と連絡を取るため。
自分は、過去に入会していた山岳会の内容を基に、以下の内容を記載しています。
- 氏名
- 性別
ネットで山友達と知り合う昨今、念のために確認しています。 - 生年月日
年齢を把握するために記載 - 山岳保険有無と内容
JROやモンベル山岳保険、ココヘリ、山岳会遭対など。 - 住所
必須の内容ですが、集合場所を決める際にも使っています。 - 電話番号
- 血液型
万一の緊急時、救助隊に伝えるために記載しています。 - 緊急連絡先の氏名、電話番号、続柄
妻、母の名前や連絡先を記載しています。
交換した連絡先は個人情報です。
むやみに他人に公開したり、ネットにアップロードなどしないよう、取り扱いに細心の注意を払って下さい。
STEP4.必要な装備を選ぶ
どんな装備をどれくらい山に持っていくかは、登山に慣れていない方にとって難しい問題です。
登山装備が足りなければ、登山の難易度が上がるだけでなく、遭難してしまうリスクも上がります。
一方、余分な装備を持っていくと、荷物重量が増加し余計な体力を消耗します。
登る山をしっかりと調査し、必要な装備を厳選してください。
装備については以下の記事で詳しく説明しています。
是非参考にしてみてください。

STEP5.その他情報を記載する
その他調査した情報をまとめ、山行計画や登山届に記載して登山に持参することで、現地でその情報を確認できます。
自分は以下の内容を必要に応じて記載しています。
- 食料計画
どのくらい食料を持っていくかを記載する。
特に長期山行ではいつ何を食べるか計画しておくと良い。 - 使用する車の情報
車の車種、色、ナンバーなど。 - タクシーの連絡先
下山後やエスケープ時、すぐタクシーが呼べる。 - 移動手段や公共交通機関の路線や時刻表
移動時に迷わず、スムーズに動ける。 - 登山口周辺の温泉やコンビニの情報
下山後に使う周辺施設を予め調べておくと、当日スムーズに動ける。 - 参考文献
情報源を記載しておくことで、次回以降の山行計画時に役立つ。
各自の必要と思う情報を記載しておくことで、当日の動きがスムーズになり、時間にゆとりが生まれます。
これにより、焦りによる遭難事故を防止できます。
STEP6.登山届、山行計画書を提出する
山行計画が完成したら、内容を山行計画書や登山届にまとめ、入山前までに提出します。
主な提出先を順に解説します。
都道府県警察
登山に訪れる山域や登山道を管轄する都道府県警察に、山行計画書、登山届を提出してください。
一般的には以下のいずれか方法で、所轄の警察に提出すればOKです。
- 登山口の登山届ポストに投函
登山口で提出する、最も一般的な方法です。
マイナーな山の場合、登山口に登山届ポストが無い場合もあり、注意が必要です。 - みなし団体から提出
コンパス、ヤマップなどで作成した山行計画書を提出する方法です。
前述の通り、簡単にコースタイムを見積もり、山行計画書を作って提出できる反面、
記載できる情報に限りがあります。 - 印刷して直接持参or郵送orFAX
各警察の地域部地域課や交番に持参または郵送、FAXする方法です。
宛先が観光協会の場合もあり。 - 各警察のウェブページ専用フォームから提出
登山届提出用の専用ページがホームページに設定されている場合があり。
詳細な提出方法は所轄の警察ホームページに記載が有ります。
例えば、長野県警察の場合、以下の様に提出方法がまとめられています。

コンビニのコピー機で登山届のフォーマットが印刷できるのは、長野県らしいですね。
[〇〇県 登山届]で検索すれば、所轄の警察の登山届提出ページを閲覧できます。
山行計画書は忘れず、所轄の警察へ提出してください。
緊急連絡先に設定した方
登山届や山行計画書は、緊急時に備えて家族や信頼できる友人などに共有しておきましょう。
特に、あなたの行動予定を把握しやすく、冷静に対応できる人を緊急連絡先に設定することが重要です。
もし登山中に行方不明となった場合、早期発見や迅速な捜索に役立ちます。
計画書があれば、警察や山岳救助隊が捜索範囲を限定しやすく、救助までの時間を短縮可能です。
また、捜索が長引くと数百万円の高額な費用がかかることもありますが、早期救助により負担を軽減できる可能性があります。
登山の捜索費用や山岳保険についての詳細は、以下の記事で詳しく解説しています:

また、情報を渡す際は、個人情報の取り扱いに注意し、信頼できる人のみに限定して共有するようにしてください。
所属している山岳会や登山サークルの留守宅メンバー
山岳会や登山サークルに所属している場合、山行計画書を団体に提出しておくことは、遭難時の迅速な対応や安全管理に役立ちます。
特に山岳会では、多くの場合、遭難対策活動の一環として計画書の提出が義務付けられています。
山行計画書を提出するメリット
- 迅速な救助要請が可能
計画書の情報をもとに、団体を通じた救助活動がスムーズに行われる。 - 事故後の対応が効率化
保険金請求や事故原因の分析が円滑になり、次回以降の安全対策に活かされる。 - 団体の支援体制を活用
山岳会やサークルのネットワークや専門知識を活かし、山行についての的確なアドバイスが受けられる。
提出時のポイント
所属団体の規定に従い、指定の担当者に計画書を提出してください。
提出方法や締切は団体ごとに異なるため、事前に確認しておくことが大切です。
目標の山を登るための計画
この記事で紹介したのは、ある一つの山を登るための計画の立て方です。
しかし、計画を実行してみると、次のような課題に直面することもあります:
- 意図していたコースタイム通りに歩けなかった
- 使わない装備があった
- ルート上でヒヤリハットがあった
これらの課題を振り返ることで、計画の精度を高め、より安全で効率的な登山ができるようになります。
繰り返し計画を立て、実践する中で次のような能力が身についていきます。
- 向かう山の難易度を事前に予測する力
- 地形図からおおよそのコースタイムを見積もる力
- 必要な装備と不要な装備を見極める判断力
- 緊急時の対応やエスケープルートを理解・判断する力
これらの経験は、登山者としての技術の基礎となり、より高い目標の山に挑戦する土台となります。
目標を達成するための次のステップ
いつか大きな山に登りたいと考えている方もいるでしょう。
そのためには、自分に足りない要素を把握し、次のような取り組みを行うことが重要です。
- 技術の向上
地図読み、ルートファインディング、パッキング、ファーストエイドなどを学ぶ。 - 体力のトレーニング
登山に必要な筋力や持久力を計画的に鍛える。 - 計画精度の向上
小さな山で計画の検証を繰り返し、反省点を次回に活かす。
目標の山に向けて一歩ずつ準備を進めていけば、挑戦が現実的になり、達成したときの喜びも大きくなります。
まとめ
今回は山行計画と登山届の立て方について解説しました。
山行計画は次の5つのSTEPを順に行います。
- 登る山とルートの事前調査を行う
登頂率や遭難確率を事前に見積もる。 - 入下山時間と、コースタイムを見積もる
登山専用地図や登山アプリでコースタイムを計算する。 - パーティーメンバーの連絡先を記載する
遭難時の対応などのため、パーティーメンバーの連絡先は必ず交換する。 - 必要な装備を選ぶ
必要な装備を厳選し、体力の消耗を避ける - その他情報を記載する
補足情報をまとめて記載し、当日、行動をスムーズに行えるようにする。 - 登山届、山行計画書を提出する
警察、家族、山岳会などに山行計画書、登山届を提出する。
山行計画を立てることは、遭難時の捜索の手がかりとなります。
また、を繰り返し山行計画を立て、その山行を振り返ることで、登山者自身の登山技術が磨かれていきます。
より効率的に登山技術を磨くためにも、必ず山行計画を立てて山に向かってください。
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